
このエントリーでは、平成31年以降、公認心理師試験を受験される方の受験資格の考え方について、解説をしています。
Gルートで公認心理師試験を受験するためには実務経験証明が必要。
公認心理師試験をGルートで受験するためには、公認心理師法第2条に「公認心理師の業務」として定められている第1号から第3号までの業務を、5年以上行ってきたことを証明しなければなりません。
公認心理師法第2条
この法律において「公認心理師」とは、第二十八条の登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
一 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
二 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
三 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
四 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
出典:衆議院
このうち、第4号の「心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。」は実務経験には含まれませんので、注意してください。
精神保健福祉士は公認心理師受験資格がある?
例えば、精神保健福祉士はストレスチェック実施者となれるなど、心理的な仕事をしているようにも見えます。
しかし精神保健福祉士法を読むと
精神保健福祉士法第2条
この法律において「精神保健福祉士」とは、第二十八条の登録を受け、精神保健福祉士の名称を用いて、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け、又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の地域相談支援(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 (平成十七年法律第百二十三号)第五条第十六項 に規定する地域相談支援をいう。第四十一条第一項において同じ。)の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うこと(以下「相談援助」という。)を業とする者をいう。
出典:e-Gav
とされており、「心理」という言葉は出てきません。
厚生労働省は、精神保健福祉士を「心理職」とはみていない。
ストレスチェック制度においても、医師、保健師、看護師、精神保健福祉士は、心理職とは区別されています。
実施者による具体的な高ストレス者の選定は、上記の選定基準のみで選定する方法のほか、選定基準に加えて補足的に実施者又は実施者の指名及び指示のもとにその他の医師、保健師、看護師若しくは精神保健福祉士又は産業カウンセラー若しくは臨床心理士等の心理職が労働者に面談を行いその結果を参考として選定する方法も考えられる。
出典:心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
ややこしいのですが、上記の太字で強調した部分の文章構成としては、
〔医師、保健師、(看護師若しくは精神保健福祉士)〕又は〔(産業カウンセラー若しくは臨床心理士)等の心理職〕
と読みます。
そのため、下記のグループ構造がこの文章では成立しています。
1.ストレスチェック実施者グループと非ストレス実施者グループ
医師、保健師はそのままストレスチェック実施者になれるグループであり、看護師と精神保健福祉士は研修を受けてストレスチェック実施者になれるグループです。
つまり、「又は」の前後で【ストレスチェック実施者になれるグループ/なれないグループ】という構造となります。
2.非心理職と心理職
医師、保健師、看護師、精神保健福祉士は心理職ではないので、「心理職」という言葉が掛かりません。
それに対して、「産業カウンセラー」と「臨床心理士」は「若しくは」で接続されているので「等の心理職」が掛かります。
つまり、この場合は「又は」の前後で【非心理職グループ/心理職グループ】という構造となります。
厚生労働省にとって、精神保健福祉士は「心理職」ではないということが、そしてその逆に、産業カウンセラーを「心理職」と見ていることが、この記述からも明らかです。
結論としては、精神保健福祉士は心理職ではないため、通常業務を行っている場合は公認心理師の受験資格はないと考えられます。
産業カウンセラーは「心理職」とされているが、(一社)日本産業カウンセラー協会の実務経験証明は有効か。
産業カウンセラーは、民間資格ですので、法律上に定義された業務がありません。
なので、ここでは(一社)日本産業カウンセラー協会の定款目的を引用したいと思います。
(目的)
第 4 条 本会は、働く人々の心の健康及び職業生活に係る諸問題に対応し、産業カウンセラーの養成、試験及び研修の実施、産業カウンセリングの調査、研究、相談事業の普及拡大を図り、就労の支援及び勤労者の福祉向上に努め、もって企業、産業及び社会の健全な発展に資することを目的とする。
(事業)
第 5 条 本会は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。
⑴産業カウンセラー(シニア産業カウンセラーを含む。以下同じ)の養成、試験の実施及び登録
⑵国家資格キャリアコンサルタント受験資格を付与する講習及びキャリアコンサルタント資格更新講座の実施
⑶産業カウンセリングに関する調査、研究及び成果の発表
⑷産業カウンセリングによる相談及びその普及・啓発
⑸産業カウンセラー及びキャリアコンサルタントに対する研修、指導及び援助
⑹産業カウンセラー及びキャリアコンサルタントに係る職域開発
⑺産業カウンセラー、キャリアコンサルタントその他、求職者に係る無料及び有料の職業紹介
2
⑻産業カウンセリングに関する専門家の派遣
⑼ADR 事業の実施
⑽産業カウンセリング普及のための広報活動
⑾機関誌、資料等の刊行、配布
⑿関係機関、団体等との連絡及び協力
⒀その他本会の目的を達成するために必要な事項
2 前項の事業は、日本全国において行うものとする。
(一社)日本産業カウンセラー協会定款目的は受験資格要件を満たす可能性が高い。
⑷産業カウンセリングによる相談及びその普及・啓発
この一文があるため、日本産業カウンセラー協会の私設相談室としての証明は、受験資格要件を満たす可能性が高いと考えられます。
この一文がなければ、あくまで「産業カウンセラー」資格を持った人々を養成したり、派遣したりしているだけで、事業としての「心理カウンセリング」はしておらず、公認心理師受験要件を満たさないとされたのではないでしょうか。
ちなみに
1992年から2001年までの間は産業カウンセラー試験が旧労働省が認定する技能審査であったため、その期間は公的資格であったが、2001年をもって技能審査から除外されたため、以降は民間資格となった。
出典:Wikipedia
こういった経緯があるため、厚生労働省では「産業カウンセラー」が「臨床心理士」よりも前に来るのだと思います。
法務教官
法務省令や法務省のサイトをざっと見た限りですが、法務教官でも、少年院勤務の場合と少年鑑別所勤務の場合では、業務が異なるため、受験資格が得られない方もいるのかな、と思います。
少年院では、生活・職業・教科・体育・特別活動の5つの指導をするとされているため、少年院勤務の場合は受験資格が(本来)ないですね。
少年鑑別所では、「法務技官(心理)」と協力して業務を行う、と書いてあるので、こちらは受験資格を満たす可能性が高いと考えられます。
同じ法務教官でも、こういった違いがあるわけですね。
しっかりと見ていけば、この要件判定はなかなかにハードです。